今年4月、診療報酬と介護報酬の同時改定が予定されています。全体としては0.54%のプラス改定となりましたが、本当に介護が良くなるのか、疑問視する声もあがっています。
国は今回の改定を「団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、国民1人ひとりが状態に応じた適切なサービスを受けられるよう、『地域包括ケアシステムの推進』、『自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現』、『多様な人材の確保と生産性の向上』、『介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保』を図る。」ためのものだとしています。
地域包括ケアシステムは、団塊の世代が後期高齢者となる2025年をめどに重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で最後まで自分らしく暮らし続けられるよう、住まい、医療、介護、介護予防、生活支援が一体的に提供される仕組みだというのが政府の建前です。
介護を必要とする度合いが重度の方が施設に入らずに地域で暮らすためには、定期巡回型訪問介護・看護や小規模多機能型居宅介護、夜間訪問介護などのサービスが十分そろっていなければなりませんが、現状は、定期巡回型サービスの普及は極めて少なく、小規模多機能型事業所の確保もまだまだ足りません。
国のこの間の介護政策は、医療的ケアが必要な中重度者に重点を絞り、軽度者は介護保険給付外へ誘導していこうという流れでした。これは、介護保険の「自立した日常生活を営むのに必要な給付を行う」という理念に反するものだと言わざるを得ません。
「統計的に見て通常のケアプランとかけ離れた回数(※)の訪問介護(生活援助中心型)を位置付ける場合には、ケアマネジャーは市町村にケアプランを届け出ることとする。市町村は地域ケア会議の開催等により、届け出られたケアプランの検証を行い、必要に応じ、ケアマネジャーに対し、利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、サービス内容の是正を促す。」というルールが導入されます。要するに、利用回数が不適切だという検証結果となったら回数を減らせという是正が求められるということであって、私は、これは「生活援助の回数減らしルール」だと思います。度々是正が求められるとケアマネージャーが自主規制して「生活援助は1日1回」などのカンパニールールも広がりかねないと思います。
※通常のケアプランとかけ離れた回数の判断は、「全国平均利用回数+2標準偏差」を基準として平成30年4月に国が定め、10月から施行するとしています。
さらに身体介護と生活援助の報酬上の格差が広がったことで、経営が厳しい事業所では多数回利用ができない生活援助は減らして、身体介護に集約する動きがでてきます。生活援助に特化した研修受講で付与される資格が新設されますが、担い手拡大につながるのか、制度として維持できるのか疑問です。すでに、要支援者向けの総合事業によるサービスの担い手について、各自治体が研修制度をスタートしていますが、担い手は広がっていません。というのも、全国で250の自治体でサービスを廃止する意向を示している事業所があることが分かっていて、人材不足と報酬が低すぎて経営的にやれないという状況にあるわけです。
要介護度軽度の利用者の生活援助については総合事業へ移行する案も検討されているようですが、総合事業によるサービスを提供する事業所が減っていこうとしている中で、政府の思惑通りにはいかないことが予想されます。
深刻な人手不足をどうするのかという問題があるわけですが、国の方針を見ると、先に見たような簡易な研修制度を新設し資格のハードルを下げることと、介護ロボットや見守りシステム、ICT活用などの省力化をすすめることしかありません。別の仕組みで、外国人技能実習生を介護職員でも導入できるようにしたり、全国的・全産業的労働力不足への対応で、外国人労働者の確保に向けた動きが出てきていますが、文化や価値観の違いがあり、少なくとも、介護現場での即戦力として期待できるようなことにはなりません。
2018年度介護報酬改定は、報酬引き上げという形を作りましたが、残念ながら、介護を充実させ、職員の処遇が改善され、地域包括ケアシステムが前進するものだとはいえません。
必要な介護を、必要とするときにはいつでも、大都会だろうが農山村・離島などどこに住んでいても、必要な量のサービスを受け取ることができる仕組みこそが地域包括ケアシステムでなければなりません。
消費税に反対の立場ですが、消費税収入を社会保障財源に充当するのであれば、これまで法人事業税の減税に使われていた分も含めて社会保障財源に回せば財源は出てきます。あるいは国民が求めているわけでもないリニア新幹線の開発や、肥大化してしまった軍事費を見直すなど、財源を生み出す方法はいくらでもあるわけです。憲法25条に規定する健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を守る立場で、介護サービス等社会保障を充実させ、介護労働者の処遇を改善し、介護の担い手になることを決意する若者を増やす、そういう仕組み作りこそ、今、求められていることではないかと思います。
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