2017年11月7日火曜日

市民公開講座

 昨日は、岡山県自治体問題研究所の市民公開講座に参加してきました。講師は、林原靖氏で、テーマは『「破綻」と「背信」から希望に向けて」。株式会社林原の経営破たん~会社更生法の適用申請~1年2か月で1,400億円の負債総額に対して93%の弁済率で会社更生計画の終結という不可解な決着を見た、「林原乗っ取り計画」ともいえる事件を振り返り、真の問題が何だったのか、何を教訓にしなければならないのか、この先に希望はあるのかを問うた意欲的な講演でした。

【経営破たん前後の経過】・・・講演で触れられなかったことも含めて備忘的に整理した。
●1970年代ハムスター法によるインターフェロンの製造法開発に向けた多額の研究開発費で1700億円の巨額の借入を行ったが、遺伝子組み換えインターフェロンの登場で、借入金の回収ができなかった。その後、トレハロース等の主力製品が開発され、経営改善が進んでいた途中で、今回の事件が起こっている。
●2010年 中国銀行(以下「中銀」)と住友信託銀行(以下「住信」)が内部資料の付合わせを行いB/Sの借入金の差異を指摘。2行の主導で林原健氏および林原靖氏の個人保証、関係各社相互の債務保証への署名捺印を行わせ、不動産を担保に入れさせた。2行の他の債権者を差し置いた行動が、後に他の債権者の不信感へとつながった。
●2010年12月 林原グループは資産のすべてを中銀と住信の2行に担保として差し出している。結果、翌年2月の融資の継続書き換え時に担保不足により資金ショートする公算となる。
●メインバンクの中銀は林原に対して裁判外紛争解決手続き(ADR)を進めるよう指示。ADRの第一人者である西村あさひ法律事務所を紹介した。
●2011年1月 ADR第1回会合で、代表取締役林原健氏が謝罪、弁護士から経営責任をとって社長の林原健氏、専務の林原靖氏、ほか経理担当役員2人が退任する旨の報告を行っている。JR岡山駅南所有地に中銀が、林原美術館に住信が、それぞれ抵当権を設定していることが明らかになったこと、前年末からADR申請まで中銀と住信の2行のみで情報を独占したことに非難が集中。
●2011年2月2日 事業再生ADRの秘密裏に協議を進める原則にも関わらず、新聞各紙に林原のADR申請がスクープされる。中銀、住信のやり方に不満だった銀行関係者がリークしたと想像される。
●2011年2月2日 ADR会合の最中に、同日に代表取締役に就任したとされる福田恵温氏の委任により、西村あさひ法律事務所の弁護士が、東京地方裁判所に林原の会社更生法の申請をおこなった。委任にあたって全株主の同意があったとされているが、林原健氏、靖氏の両名はADR会合に出席しており、福田氏による同申立は西村あさひ法律事務所による不実、私文書偽造の疑いが濃厚と指摘されている。
●こうした経過の中で、ADR不成立、会社更生法の適用となり、保全管理人、更生管財人にはADR時の顧問弁護士団を束ねていた松嶋英機弁護士が横滑りし、参加の西村あさひ法律事務所の弁護団もADR時のまま継続して会社に常駐した。ADR時には林原の弁護側だった西村あさひ法律事務所が一転して糾弾側に立つことになった。
●再建スポンサーは、3回の入札で決まったが、最終的に落札した長瀬産業は、1回目、2回目の入札には参加しておらず、債権者である三井住友銀行がメインバンクの強力な意向により、長瀬産業が再建スポンサーに選ばれたのではないかと考えられる。
●2011年8月3日 最後の入札を経て長瀬産業がスポンサーに決定し、12月31日に東京地裁により更生計画案が認可された。
●JR岡山駅南の林原所有地は、2011年9月21日に入札が行われ、イオンモールに売却が決定。裁判所の更生計画案の認可を待って、2012年1月末に土地の引き渡しが行われた。
●2012年2月1日付で林原商事、林原生物化学研究所の2社は林原に吸収合併され、2月3日には林原は100%減資のうえ、長瀬産業の完全子会社となった。
 長瀬産業(大阪市)からの出融資700億円、売却可能の株式などが約300億円、岡山駅前の土地が約200億円強、その他の土地・建物などが約100億円、そして林原健と靖の私財提供分の数10億円を加えると、ほぼ銀行借入のすべてがこれらによって肩代わりできることになった。結果として総額約1400億円の負債に対し、約1300億円の弁済原資を確保。弁済率は約93%と更生法下では異例の高水準、更生法適用から約1年2ヶ月でのスピード終結となった。
※林原靖氏は、「実際には弁済率100%超だった。」と報告していた。

◆林原靖氏の講演から
【根本の疑問】
・なぜ、世界に向けて快進撃を続けていた有望な会社を大きく育成することを考えず、強引に潰すことになったのか。

【問題はどこに・・・】
1.銀行の問題
 銀行は「短期の自己利益の追求」に奔走し、「社会の幸福を増進」し、「事業を育て」、「経営をサポートする」という機能を全く果たしていない。金貸しは借り手の弱みに付け込みあこぎに奪い取ろうとする。銀行は借り手を育て共に喜び、世の中に新しい価値を創造・提供するという本来的意義を忘れ、単なる金貸しに堕しているのではないか。
2.法律事務所の問題
 「弱き者を守る」社会正義の精神を見失い、教条主義的で「前近代的」のまま。スティーブ・ピンカーの『暴力の人類史』によれば、人類の歴史は「弱い立場の人々を守る歴史」であった。日本の司法界は、自らを絶対権力の体現者と勘違いして、きわめて教条的で、明治以来の「国家主義」「お上の立場」から進歩していない。
3.マスコミの問題
 マスコミは、真実の追及と社会の木鐸たるを忘れ、管財人の流す情報を記事として垂れ流し、「偏見・偏向」に終始した。本来、報道は現場取材を徹底し、自分の足と目と耳で事実を確認し、人類の歴史と文化に学びながら、グローバルな視野を持ちつつ、積み重ねた事実から読み取るべき真実について自分の頭で考え、必要な時には断固闘う決意をもって記事を発信しなければならない。近来のマスコミはそういう普通のことができなくなった。一時の煽情的なあおりだけで、あとは口をつぐみ知らぬ顔。

 講演を聞きながら考えた。

 銀行が金貸しに堕していると指摘しているが、それがその通りだ。そもそも銀行員が色んな産業のことを知らない。もちろん、中には自分が担当している企業の業界の状況をよく勉強している人もいるかもしれない。しかし、私が知っている限り、そんな人はほとんどいなかった。業界の置かれている現状も知らずに、担当企業の財務に口を出すわけだから、結局、保有する資産の価値だとか、預貯金の額だとか、資本金だとか、利益を生んでいるかどうかとか、そういったことで金を貸せるかどうかを判断することになる。
 その企業の事業活動の将来性だとか、地域社会に対する貢献度だと、さらい云えば地域の繁栄や発展という視点から判断して、その企業を育てる観点で共に汗を流すような銀行があったら、どんなにいいだろう。「なければ作る」そんな発想も必要なのかもしれない。

 JR岡山駅南の林原が所有していた土地は、今はAEON MALLになっているが、岡山らしさがあるわけでもなく、渋滞緩和で駐車場は有料とし、周辺に無料駐車場を整備してバス輸送するとしていたが、集客が見込みを下回り、結局、現在は駐車場は事実上無料となっている。こういうところは、新しくできた当初は人が集まるけれど、時間の経過とともに飽きられてしまうことになる。しかし、AEON MALLができたことで閉店を余儀なくされた地域の商店街は戻ってこない。結局、あまり良い事にはならないんだよね。そんな施設を作るよりも、岡山らしく、駅前商店街を含む再開発計画を造り実行する事ができなかったのかと思う。そういう地に足をつけた計画づくりとその実践は、時を積み重ねて成長していけるが、AEON MALLのような施設は作った直後にピークを迎えあとは徐々に後退していくだけだ。
 岡山市内の企業を地域資源の一つとしてとらえ、企業と市民、自治体の仕事をネットワークでつないで、地域の成長と市民の幸福、企業の発展が同時に実現されていくような、そんな共生型の地域社会を作ることにもっと注意を払うべきだ。銀行も法律家も企業も同じプラットフォームの上で、自分たちの仕事を組み立てることを真剣に考えないと、さらに高齢化が進み、人口が減っていくこれからの社会の中で、みんなの幸せを実現する事はできない。

 講義の中で触れていた「3だけ主義」(=「今だけ」「自分だけ」「金だけ」という刹那的・自己中心的な考え方。)では、これから先やっていけないといことを、政治家をはじめ多くの国民が気づかなければならないと強く感じた講演会でした。

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