わが国では、これまで憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という定めに基づき(生存権保障)、生活保護法がセイフティーネットの役割を果たしてきました。しかし、下のグラフ(「年収ラボ」)1990年代にバブルが崩壊すると1997(平成9)年をピークにサラリーマンの平均年収が下がり始め、2009(平成21)年には、リーマンショックの影響で一気に平均年収が5%以上落ち込み、翌年から持ち直す兆しが見えたところで2011(平成23)年に東日本大震災が発生するなどした結果、生活保護受給者数は増加の一途をたどっています。
上の図(「社会実情データ図録」作成)を見るとわかるように、1993、94年の586千世帯から2016年度には1,637千世帯へと増え続けています。危機感を覚えた政府は、生活保護への締め付けを始めました。
記憶に新しいのは2012年に芸能人の母親が生活保護を受給していたことをとりあげ、まるで「不正受給」であるかのように報道されました。だいたい国の常とう手段で、マスコミを使って世論誘導しておいて制度を改悪していくわけですが、この出来事もまさに国民が生活保護受給者に対して厳しい目を向けるように仕向けられたものでした。この出来事は生活保護法に様々な影響を与え続け、制定後初の生活保護法改正を招くことになりました。
主な改正内容は、①就労による自立を促進するとして、安定した職業に就くことにより保護から脱却の脱却を促すための給付金の創設(就労自立給付金)、②健康・生活面等に着目した支援といいながら、受給者自らが、健康の保持・増進や収入・支出等の状況の適切な把握に努めることを要求、③不正・不適正受給対策の強化として、福祉事務所の調査権限を拡大し、罰則の引き上げと不正受給に係る返還金の上乗せ、福祉事務所が認めたときは扶養義務者に対して必要な限度で報告を求めること、④医療扶助の適正化では、指定医療機関の指定要件の明確化及び更新制の導入、後発医薬品の使用を促すこと、国による医療機関への直接指導を可能とする、等となっています。
国は、こうした生活保護法改正を準備する一方で、2012年に社会保障審議会に「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」設置し、翌13年の報告書を受けて、未だ生活保護の対象にならない生活困窮者に対する支援にあたる、生活困窮者自立支援法が生活保護法の改定に合わせて2015年に制定されました。
生活困窮者自立支援法第1条に目的が書かれています。曰く「この法律は、生活困窮者自立相談支援事業の実施、生活困窮者住居確保給付金の支給その他の生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより、生活困窮者の自立の促進を図ることを目的とする。」とされています。
具体的に行われる事業は次のようなものです。
1.自立相談支援事業の実施及び住居確保給付金の支給(必須事業)
◆ 福祉事務所設置自治体は、「自立相談支援事業」(就労その他の自立に関する相談支援、事業利用のためのプラン作成等)を実施します。
※ 自治体直営のほか、社会福祉協議会や社会福祉法人、NPO等への委託も可能
◆ 福祉事務所設置自治体は、離職により住宅を失った生活困窮者等に対し家賃相当の「住居確保給付金」(有期)を支給します。
2.就労準備支援事業、一時生活支援事業及び家計相談支援事業等の実施(任意事業)
◆ 福祉事務所設置自治体は、以下の事業を行うことができます。
・ 就労準備支援事業
就労に必要な訓練を日常生活自立、社会生活自立段階から有期で実施
・ 一時生活支援事業
住居のない生活困窮者に対して一定期間宿泊場所や衣食の提供等を行う
・ 家計相談支援事業
家計に関する相談、家計管理に関する指導、貸付のあっせん等を行う
・ 学習支援事業その他の自立促進に必要な事業
生活困窮家庭の子どもへの学習支援、その他生活困窮者の自立の促進事業
3.都道府県知事等による就労訓練事業(いわゆる「中間的就労」)の認定
◆ 都道府県知事、政令市長、中核市長は、事業者が、生活困窮者に対し、就労の機会の提供を行うとともに、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う事業を実施する場合、その申請に基づき一定の基準に該当する事業であることを認定する。
4.費用
◆ 自立相談支援事業、住居確保給付金:国庫負担3/4
◆ 就労準備支援事業、一時生活支援事業:国庫補助2/3
◆ 家計相談支援事業、学習支援事業その他生活困窮者の自立の促進に必要な事業:国庫補助1/2
地域で安心して暮らし続けることができるためのセイフティネットとしての生活保護法と生活困窮者自立支援法、どう活用していくかという視点でしっかり勉強しておかなければならないと思いました。
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