マイナンバーカードの不祥事が止まらない。
マイナンバーカードの導入の目的について、国がどう説明しているかを見る。
・国民の利便性向上
これまで、市区町村役場、税務署、社会保険事務所など複数の機関を回って書類を入手し、提出するということがありました。マイナンバー制度の導入後は、社会保障・税関系の申請時に、課税証明書などの添付書類が削減されるなど、面倒な手続が簡単になります。
・行政の効率化
マイナンバー制度の導入後は、国や地方公共団体等での手続で、個人番号の提示、申請書への記載などが求められます。国や地方公共団体の間で情報連携が始まると、これまで相当な時間がかかっていた情報の照合、転記等に要する時間・労力が大幅に削減され、手続が正確でスムーズになります。
・公正・公平な社会の実現
国民の所得状況等が把握しやすくなり、税や社会保障の負担を不当に免れることや不正受給の防止、さらに本当に困っている方へのきめ細かな支援が可能になります。
もっともらしいことが書かれているが、字面だけではない本当の理由はどこにあるのか。おそらく、3つめの「国民の所得状況等が把握しやすくなり、税や社会保障の負担を不当に免れることや不正受給の防止」に活用するというところに本音があるのだろう。なぜなら、今後5年間で43兆円の軍事費を使う計画が具体化されようとしている中で、その財源をどうするのかが議論されているわけだが、日本の国民負担率の推移をみると1970(昭和45)年24.3%、1990(平成2)年38.4%、2020(令和2)年47.9%と上昇してきており、すでに国民所得の半分近くが租税負担と社会保障負担で持っていかれており、簡単に増税するということにはならない事情があるからだ。だから、軍事費をどう調達するかを考えるとき、国民の所得状況を正確に把握し、税負担を求める可能性があるところからは、さらに税金を取ってやろうと考えているとみるのが普通だろう。
もう一つ、見ておきたい数字がある。財務省が公表している1979年度以降の税収の推移の税収の3つの柱(法人税、源泉所得税、消費税)の状況。この3つの税収で税収全体の約8割を占めているのだが、公表されている直近の数字(2021年)で見ると、3つの中の一番多いのが消費税で21.8兆円、以下、所得税21.3兆円、法人税が13.6兆円と続く。消費税が導入された1989(平成元)年の数字を見ると所得税は21.4兆円、法人税18.9兆円、消費税3.2兆円となっており、消費税収は681.3%に増え、所得税はほぼ横ばい、法人税は72.0%に減少している。消費税が法人税を下げるために使われてきたことが一目瞭然なのだ。
企業収益の推移をみると経常利益は右肩上がりで増えているのに法人税は減り、その分消費税収が大幅に増えているわけで、国民の負担が一貫して強化されてきたことがわかる。
防衛費の財源をどこに求めるか、普通に考えれば、法人税を強化するということになるわけだが、そうせずに消費税の引き上げとマイナンバーカードで国民の所得や資産の状況を把握し、とれるところからはさらに税負担を強化しようというのがこのマイナンバーカードの本音ではないのか。
だから、次々にトラブルが見つかってもやめようとしない。丁寧に説明して国民の理解を得るという発言を繰り返している。丁寧に説明するというだけでは、丁寧に説明したことにはならないのだが、最近の内閣の発言を聞いていると、「丁寧に説明する」と発言すればそれで丁寧に説明したことになっているとしか思えない。それをマスコミが許しているというというところに問題があるわけだが、ジャーナリズムの問題はまた別の機会に書いてみたい。
さて、マイナンバーカードの問題に戻ろう。「公金受け取り口座に本人以外の口座が登録されている」、「マイナ保険証に別人の情報が登録されている」、「コンビニで別人の住民票や抹消済みの住民票が発行される」、「マイナポータルで別人の年金記録が閲覧できる」、「同姓同名の別人にマイナンバーカードが交付される」・・・等々の具体的な問題が多数指摘されている。マイナンバーは特定個人情報に位置付けられていて、「個人のプライバシー等の権利利益に与える影響を予測した上で特定個人情報の漏洩その他の事態を発生させるリスクを分析し、そのようなリスクを軽減するための適切な措置を講ずる」ことが宣言されている。そのマイナンバーで先に書いたようなトラブルが続出しているのであって、入口のところで躓いているわけだ。
このような重要な個人情報を扱うシステムは、ちゃんと動くことが確認されてから運用を開始するべきであるにもかかわらず、「発生してはならない問題が発生している」という決定的な誤りを犯してしまっている。もちろん動かして、バグを見つけて、修正していくという手法でシステムを開発する手法もあるが、個人の利益につながるシステムの開発に、この手法を採用してはならないのは言うまでもない。
政府は、決定的な誤りを犯しているシステムを動かすことに固執し、そこに紐づけする健康保険証は来年秋には廃止すると言い続けているわけだが、誤りの上に誤りを重ねようとしているようにしか見えない。
自らの行動を振り返り、誤りは正すという立場に立てない人に、日本という国のかじ取りを任せておくわけにはいかない。私は、そう思う。
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